五頭連峰・親子遭難遺体発見のニュースを見て思ったこと

五頭連峰という新潟の山域において親子が遭難したとの報道は気にしていましたが、非常に残念な結果になりました。

[五頭連峰] 新潟の親子か、2遺体発見 6日から連絡取れず(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20180529/k00/00e/040/279000c

遭難されたお二人のご冥福をお祈りいたします。

山で道迷い遭難で命を落とさないために最低限必要なことは何でしょうか?あらためて考えてみたいと思います。
以下は、私の答えです。

・スマートフォンを用意する。登山用のマップアプリ(例えばSkyWalking)を使えるようにしておく。
・オフライン状態でも山域のマップが表示できるように準備しておく。
・予備のモバイルバッテリーを持っていく。
・道に迷ったら、沢を下らないようにする。登山道から外れた沢を下ることは行動不能な崖や滝に行き着くことが多く、さらに危険な状態に陥ることがある。現在位置をアプリで確認し、可能ならば、来た道を戻るようにする。

最低限上記のことを実行すれば、たとえ山で道に迷っても、スマホアプリを使うことで自分の現在位置が分かります。ということは自力で帰ってくることができます。絶対に安全ではありませんが、それらが用意されていなかった状況と比較してみてください。自力で家に帰れる確率は格段に上がるでしょう。

山は、私たちに多くの豊かな経験を与えてくれますが、同時に遭難する可能性が常にある危険なエリアでもあります。どんなに低い山でも「山は危険である」という認識を持って山に行ってください。

私は、山で道に迷わないために拙作アプリ・SkyWalkingの開発を続けています。登山を始めた頃、登山で道に迷って命を落とされる方があまりに多いことに愕然とし、スマートフォンの機能を有効に使えば、少なくとも山で現在位置をマップ上に表示することは可能であることを知りました。しかしこういった使い方は、先進的なスマホユーザ層には少しずつ知られてきた気がするものの、まだまだ一般のスマホユーザには浸透していないように思われます。それは私のようなアプリ提供者の力不足でもありますが、マスコミや政府・自治体、教育機関が生きていくのに必要な「ITスキル」として教えてこなかったからでもあります。緊急地震速報がそうですが、スマートフォンはもはや国民にとって「インフラ」といってもよいツールであり、非常事態時に使い方を示すことは、場合によっては自分の命を守る行動に直接つながる大変重要なことです。

私は現在、京都大学大学院で、防災と情報に関する研究をしていますが、登山における道迷いを防ぐことと、災害から命を守ることは、よく似ている点があります。それは、ちょっとした知識があるかないかで、命が助かるか助からないかが左右されるということです。例えば、大きな地震が起きた直後は、津波が来る可能性を疑わなければなりません。それはもはや日本人にとっては、常識といって良いでしょう。その常識は、繰り返しニュースで報道されたり、学校で教わったりして、日本人が身につけた知恵です。しかし、世界的にはそのような常識が一般の国民に伝わっていない地域や国々がたくさんあります。

それと同じように、ネットにつながらない山でも、スマートフォンを有効に使えば現在位置を知る手段はあります。それを実行すれば道迷いのリスクがかなり減少することは明白です。それは私たちにとって常識でしょうか?おそらく日常的にスマートフォンに接しているユーザにとっても、常識になっていないと思われます。それはなぜでしょうか?あまりにそういった報道や使い方の提供者が発する情報が、少なかったり、弱かったりするからです。また学校などの教育機関や警察・自治体が、スマートフォンというものに対して、大きく遅れているからではないでしょうか。だから私は、アプリ開発者として、声を大にして言いたいわけです。スマートフォンを使えば、山で道迷いのリスクを劇的に減らせる方法はあるんですよ、と。またマスコミなどの報道機関にもぜひお願いしたい。どうすればこのような痛ましい遭難を防ぐことができたのか?それを大きく報道していただきたい。そういった動きが広がらない限り、明らかに命を落とす必要はなかったにもかかわらず、いつまでたっても道迷い遭難の犠牲者が減りません。ちょっとした知識で、防げたかもしれない遭難であり、人命です。私にはそれが残念でなりません。

拙作アプリ・SkyWalkingでなくってもいいんです。私にとっては、SkyWalkingは自分にとって一番使いやすいから使っているだけですし、そもそもiOS版しかないので、Androidユーザさんには提供できないアプリですから、誰にでも使っていただけるアプリではないです。ですが、SkyWalking以外にも優秀なアプリや現在位置を知ることができるハードウェア、GPS端末はあります。ですから、山に行かれる方は、ぜひスマートフォンの有効性を認識していただき、少しでいいですから使い方を学習して、準備もしていただいて、最低限の自己防衛をしてから、山に行っていただきたいのです。

私にはまだ小さい娘がいます。いずれこの子が山や自然に関心を示してきたら、一緒に山へ出かけることを楽しみにしています。そのようなこともあり、今回の新潟の親子の遭難は、いったい何が原因だったのか非常に気になっていました。幼い子供はまだ自分で判断ができません。ですので、ぜひ、大人にお願いしたい。山は一歩間違えれば、危険なエリアです。ほとんどの場合は楽しいハイキングになりますが、条件が悪いと人家からたった数百メートル先のエリアでも遭難します。まず山は危険であるという認識を持ってください。その上で、ぜひ山で道に迷わないために何ができるのか、しっかり準備をしてから、子供と山に出かけるようにしてください。道に迷ってからでは遅いのです。

私は最近思います。報道でよく聞くように登山届を出すことも大切ですが、何より大切なことは、そもそも道迷い遭難をしないことです。登山届は警察の捜索の役には立ちますが、登山届が道迷い遭難を防止してくれるわけではありません。また紙の地図も読図ができれば重要な情報源になりますが、現在位置が正確に分かるためには、それなりの経験や技術が必要です。ただの紙ですから。現代において山で道迷いを防ぐ最も手軽で有効な方法は、スマートフォンに登山用のマップアプリを入れて、ネットに接続できない場所でも使えるようにしておくことです。そしてひとつ気をつけなければいけないのは、バッテリー切れの問題です。だいたいのGPSロギングアプリは、早いペースでバッテリーを消耗していきます。ですので、予備のモバイルバッテリーは多少の荷物になりますが、必ず持っていくようにしてください。

もし、今回の親子が遭難した原因が道迷いだったのであれば(今日の報道から察するに道迷いだと思われますが)、私はスマートフォンを有効に使っていれば、かなりの確率で防げたはずの遭難だったと思います。そう思うと、本当に残念な気持ちになります。どんな気持ちで、山の夜を過ごしてビバークしたのかなと思います。こんなはずではなかったと、非常に後悔したのではないでしょうか。ましてや子供さんもいるわけです。私はSkyWalkingが少しでも道迷いを防ぐための方法として役に立てるよう、気持ちを新たにして開発を続けていきたいと思います。少し気持ちが入りすぎて、乱文・冗長な文章になってしまったかもしれません。

SkyWalkingでGPSロギングを楽しまれているユーザの方にお願いです。SkyWalkingでなくってもかまいませんから、回りにいる人で、スマートフォンの有効性をまだ知らない人に、山での使い方を教えてあげてください。それがいざというときに、自分の命を守ることにつながると、説明してあげてください。皆さんの力で、防げたかもしれない道迷い遭難を減らしていきましょう。

もし、SkyWalkingの使い方で不明な点がありましたら、お問い合わせください。できる限りフォローいたします。