« 万世特攻平和祈念館 (03) 万世飛行場の営門と灯籠 | 摩文仁の丘より | 枕崎・平和祈念展望台より、戦艦大和を想う (02) 殉難鎮魂之碑から東シナ海を望む »

2010年5月13日

枕崎・平和祈念展望台より、戦艦大和を想う (01) 枕崎到着

 二〇〇九年七月のある日の夕方、鹿児島県にある万世特攻平和祈念館を訪れていた私は、タクシーで加世田のバス停に戻り、そこから枕崎に向かうバスに乗り込んだ。

 特に何か目的があったわけではなく、枕崎を訪れるのはまったく初めてのことだった。今回の旅で、鹿児島を訪れた最大の目的だった知覧特攻平和会館と万世特攻平和祈念館を訪れることができたので、その日は鹿児島中央駅に引き返さずに、寄り道して枕崎あたりで宿を探して一泊し、翌日はJRの路線でもっとも南を走る路線と言われているJR指宿枕崎線に乗って、ぐるりと薩摩半島を回って鹿児島中央駅に戻ればいい、そんなことを考えたのであった。

 枕崎。もしかすると今日行かないと、一生訪れることがない街かもしれない。そんな気がしたのである。不思議なことに、偶然から発したその行動が、戦艦大和と第二艦隊が壊滅・轟沈した縁の地との思いがけない出会いとなるのであるが、そのときそのことは、まったく頭になかった。

 加世田から小一時間ほど山道を走り抜けたバスは、終点の枕崎のバス停に停車した。バスを降りると紛れもない鰹節の豊かな香りが街全体を覆っているのを感じた。ここ枕崎は、我が国有数の鰹の街なのだ。

IMG_0292.JPG

 枕崎駅前には「日本最南端の終着駅 枕崎」と書かれた灯台が建っている。

 日が暮れるまでに、まだ少し時間がある。私は枕崎漁港の方へ歩いてみた。港に近づくにつれ、鰹節の香りは、いっそう濃厚になっていく。私は、「ああ、東京から遠くに旅に来たのだ」という旅人が時折感じる気分を味わいつつ、枕崎漁港から夕日に染まっていく海を眺めていた。

IMG_0299.JPG

 港に向かう途中に目を付けていた「愛助堂」というラーメン店に入り、かつおラーメンを注文した。これが今日の晩飯だ。かつおの風味がひろがるなかなか旨いラーメンだった。
 お店のご主人と話をすると、観光客が来るのは珍しいと言われた。今日泊まるところを探していると言うと、枕崎の観光マップのようなものをくれた。「焼酎・魚・芸術・大自然 いま枕崎がおもしろい!」と大きく書かれている。発行元は枕崎市観光協会。A3のカラーで印刷された観光マップだ。何気に読むと、次のような文章が私の目に止まった。

「平和祈念展望台は、戦艦大和の沈没五十周年にあたる平成七年四月に建立されました。記念碑・平和シンボルの女神像などが安置され、ここから二〇〇キロ南の東シナ海に散った多くの英霊を永久にご供養するとともに、世界の繁栄と恒久平和の願いが込められています。映画「男たちの大和/YAMATO」のロケ地も近くの海岸で行われました。」

 戦艦大和。そうだ、そこに行ってみよう。
 私はお店のご主人に礼を言って店を出て、コンビニに立ち寄ってちょっとした買い物を済ませ、コンビニの前でラーメン店でもらった観光マップを広げ、平和祈念展望台の近くの「シーサイドホテル八潮」に電話をしてみた。
 部屋は空いているというので、今日の宿はそこに決めた。そのホテルは、火之神公園という東シナ海に面した公園の近くにあり、観光マップの簡略化された地図を見る限り、枕崎の中心部から数キロほど離れているようだった。

 さて、暗くなっていく街を歩くか、あるいはタクシーでも拾おうかと思案していると、コンビニのレジで私の後ろに並んでいたとおぼしき見知らぬ若い男性が、
「私の車でよければホテルまでお送りしますよ」と突然話しかけてきた。どうやらコンビニの前でのホテルと私の電話のやりとりを、それとなく聞いていたものらしい。
 私は突然の親切な申し出に、
「いいんですか?枕崎は初めてなもので。助かります」
「いいんですよ。さあ、乗ってください」
 私は親切な彼の好意に甘えることにし、彼の車の助手席に乗った。不思議なものだ。東京では、まず考えられないような展開である。
 彼は、細かいことは忘れてしまったが、看護の勉強をしている学生で、私は東京から一人旅の途中であること、加世田からふと思い立って枕崎に来たことなどを話した。ホテルにはほどなく着いたが、歩くと三〇分はかかっただろう。
「東京で鹿児島出身の人がいたら、親切にしてやってくださいね」
 そう言い残し、親切な彼は車で走り去っていった。クールで親切な薩摩隼人だった。
 加世田でもそうだったが、ここ枕崎でも、一見して旅人と分かる私に対して、親切な人が多いように感じた。鹿児島は、旅人に対して親切な土地柄なのである。

 シーサイドホテル八潮は、写真で見た印象よりも古びた感じのするホテルであった。女将さんに二階の六畳一間の部屋に案内された。ホテルの中は静かで、私の他に宿泊客はあまりいないように感じられた。部屋から夜の海が見え、窓を開けるとザザーッと潮騒が聞こえた。枕崎の街外れの海に面した、潮騒が聞こえるホテル。部屋の壁紙は破れかかっているし、天井もシミのようなものが浮いているしで、快適な一流ホテルとはいかないが、予想もつかない、いきあたりばったりの気ままな一人旅である。上出来ではないか。

 無性に酒が飲みたくなったので、私は女将さんに頼み、芋焼酎を持ってきてもらった。さつま白波。このすぐ近くに蒸留所があるという。部屋で一人、今日知覧と万世で巡り会えた英霊の御霊と乾杯しているような気分で、私はさつま白波をロックで飲んだ。知覧・万世を巡り、枕崎に辿り着いた長い一日が終わろうとしていた。

「枕崎・平和祈念展望台より、戦艦大和を想う (02) 殉難鎮魂之碑から東シナ海を望む」に続く

2010年5月13日 13:07